2016年3月4日金曜日

[034.1] feb

2月のリスニングから
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Little Blue Nothing: a portrait of Vojtech and Irena Havlovi (Petites Planètes, 2008)
スワミ・マヘシュワラナンダというインドのスピリチュアルマスターに、多大な精神的感化を受けたと語るハヴェル夫妻。91年作「Malé modré nicは、師に捧げられた作品だった。東洋哲学やヨーロッパの豊穣な音楽に基盤を支えられつつも、この2人の創り出す音楽にはどこか無国籍的な響きがあり、2人の間だけでひそひそと小声で交わされるような秘めやかな思想や美意識といったものが感じられた。Irenaの詩の一節Malé modré nic(小さく、青く、何もない)は、その世界観をあらわすシンボルのように思う。2008年に製作されたドキュメンタリー映画「Little Blue Nothing」は、 "旅する映像詩人" こと仏映画監督Vincent Moon(ヴィンセント・ムーン)によって撮影、彼のプロダクションPetites Planètes(小さい地球の意)の「Musicians of Our Times」シリーズの第1弾として公開されたハヴェル夫妻のポートレイト。2人が出会って演奏を始めたきっかけ、革命前後の音楽業界の変化、音楽に対する考え方について、若いカップルのように話す2人の佇まいや、時々織り込まれるプラハの風景に、彼らが送ってきた生活の大切なパートが垣間見えて、捉えにくく感じていた音楽はずっと親しみ深いものになった。

Oldřich Janota & Jiná Rychlost Času - Hvězdná Mapa (Indies Records, 1993)
2月半ば、Discogsでやり取りしたチェコのセラーの方が「素晴らしいコンピレーションCDがリリースされた」と興奮気味に教えてくれたのが、Oldřich Janota(オルジフ・ヤノータ)の8枚組CDボックスUltimate Nothing」。コンサートやジャムセッションなど、長年にわたる録音から選び抜かれたライフタイム・ワークスで、セラーの曰く、古い曲は当時プライベート・カセットで聴かれていたという。ヤノータは70年代からオルタナティヴ・シーンで活動する詩人/フォークシンガー。ハヴェル夫妻と同じく公にレコードを発表したのは90年以降で、長い活動期を経た90年代はもっともミニマリズムや音響への探究心が昂っていた時期だったと思う。この星の地図」は、ピルゼン地方の町プラスィにある聖ベネディクト修道院で92年に録音された作品5千本を超えるオーク材で造られた基礎に水を張ることで、空気を遮断し、腐敗を防ぐという特殊な構造をもつバロック式修道院の教会内で、ヤノータを含む5人のプレイヤーが建物の空間・光・響きに即時反応し、音へ転写する試みが行われている。ゴブレットやゴングを使った金属的なドローンにポルトガルのOsso Exóticoを連想した。

Richter Band - PF 92
ČESKÁ AMBIENTNÍ HUDBA 1990-2015」の90年にハヴェル夫妻やヤノータと共にリストされているRichter Band(リヒター・バンド)。ElektrobusやŠvehlíkなどオルタナティヴロック・グループを渡り歩いたギタリストPavel Richter(パヴェル・リヒター)を中核に1984年に結成。ジャズと民族音楽、エレクトロニクスを融合したジャム・アンサンブルで、90年に「Smetana」、92年に「Richter Band」を発表し、メンバーを入れ替えながら近年まで活動が続けられている。この「PF 92」は、キャラネティック協会からエクササイズ用音楽の依頼を受けたリヒターが、グループの1人であるマルチ奏者Antonín Hlávka(アントニン・ハラフカ)と2人で行った91年のスタジオ・セッションで、後にCDRでリリースされた作品。哀感を誘うロング・サスティンのギターにヴァイブが重なり合う天界のアンビエント・ナンバーから、ツィターやジャンベを使ったミニマル・フォークまで、4曲がサウンドクラウドで公開されていた。ロック方面から直球なアンビエント/シンセドローンへアプローチした、当時のチェコでは数少ない存在だったと思う。


HOVE - Journey to Arendal Mixtape (Light of Other Days, 2016)
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チューリッヒ拠点のレーベルLight of Other Daysのオーナー、Marc Hofweber(マーク・ホフヴェーバー)のソロプロジェクトHOVEKrossfingersの1月ベストレコードにピックアップされた "Hillside" に惹かれて、レーベルのサイトを見ると、同じカバーアートで紫と青、2つの作品が並んでいた。Robin Guthrieを想わせる深くリバーブがかったギターからコスミックなシーケンスに展開する "Hillside" が収録されたのは紫のカバーで、HOVEのデビュー作にあたるEP「Journey to Arendal。一方、この青のカバーはそのスピンオフとしてリリースされた90sマナーのアンビエント-ハウスのミックステープで、同時期に録音されたジャムやスケッチ、フィールドレコーディング、リミックス音源が使われている

Lood Podcast 4 - ETHIMM (2015)
Light of Other Daysのサウンドクラウドで更新されている、HOVEや彼の友人達によるポッドキャスト・シリーズより。レーベルタイトルとして昨年10月にデビューEP「Hello, We're Ethimm And We're From Nowhereをリリースした、Elisabeth Thimm(エリザベス・ティム)とBrian Gimmel(ブライアン・ジンメル)のデュオ・プロジェクトETHIMMによる#4エクスクルーシヴ・トラックを含む静かなクラシカルピアノ・アンビエントで、ダブ〜トリップホップのEPとは異なる一面を披露していた。仕事のBGMに静かに再生して聴いた25分のミックス。

Dr Rob - The Remedy
listen #253 & #255
もうすぐ5周年を迎えるFM軽井沢の音楽プログラム「The Remedy」から。2月13日放送の#253は、2015年リリース作品を中心としたアンビエントのラウンドアップ。この中で、昨年Kompaktからリリースされたアルゼンチンのベテラン・プロデューサーLeandro Fresco(レアンドロ・フレスコ)の美しい1曲 "Sol De Medianoche feat. Gustavo Cerati" を知ることができた。27日放送の#255は、International Feelから新作ミニアルバム「On Vacation」をリリースしたモントリオールのプロデューサーCFCFの特集。80-90sシンセ/ニューエイジ作品へのリスペクトやオマージュを随所に散りばめるCFCFのサウンドにフォーカスし、モチーフとなっている時代の象徴的なトラックや、その作風から繋がる現在形ニューエイジ・バレアリック作品から選曲されている。